虞美人草

研究ノート

映画『虞美人草』(1941)と『三四郎』

夏目漱石原作の『虞美人草』は過去2度映画化されている。最初の映画化作品となる溝口健二版(1935)を見た記憶はあるのだが、内容は完全に忘れてしまった。概要を確認してみると主人公を宗近に、ヒロインを小夜子に据えたものに変更しているらしい。現存するフィルムの保存状態がすこぶる悪い(台詞が聞き取りづらい)せいもあって、評価はあまりよくないようだ。溝口版に関する言及は今回の眼目ではないので置いておくとして、もう一つの中川信夫版(1941)は素晴らしかった。中川信夫という人はもともと新感覚派文学やプロレタリア文学に傾倒して同人誌に小説を書いたこともある文学青年なので、文芸作品とは相性がいいはずなのだ。ことに本作は原作の世界観や時間の流れ、漱石が書いた一字一句をいかに大事にしているかが伝わってきた。とはいえ原作とは違い、小野が小夜子と藤尾を引き合わさず藤尾の死を劇的に描かなかったのは、原作で向けられた藤尾に対する作者の意図小宮豊隆宛書簡(1907)「藤尾といふ女にそんな同情をもつてはいけない。あれは嫌な女だ。詩的であるが大人しくない。徳義心が欠乏した女である。あいつを仕舞に殺すのが一篇の主意である...